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悪戯っぽさを少し残す目を丸くさせ、私への質問を次から次へと投げかけてくる。
その質問に答えているうちに、あれ?何かおかしい。
ふと気付けばいつの間にか立場が逆転している…。
いつも人の話を聞く側にいるから、自分の事を話すのに慣れていないのだ、と大らかな笑い声を立てて、彼女は言う。
職場でのこぼれ話や裏話を語るその声は、独特の力強さがあるものの、押し付けがましいわけでも、強引なわけでもない。
隣家の喋り好きのお姉さんといった感じだ。なのに声を鼓膜に浸透させているうちに、
自然と彼女の放つ空気の中に、すっぽりと包まれてしまう。
そんな鎌田幸代さんは、FMうじのパーソナリティー、各放送局のテレフォンショッピングの司会をする傍ら、ブライダルの司会をしている。
子供の頃は、いつもクラスのお調子者的存在だった。喋ること大好き。目立つこと大好き。
夢はテレビ番組の「なるほどザワールド」のリポーターになることだった。
人前で喋る仕事がしたいという夢を抱き、バスガイドの仕事を始めた。研修期間が終わり、やっと一人前として働けるこれからという時期に、辞めることを決意。
バスの乗客は最大でも六十人。もっと多くの人の前に立ちたい。もっといろんな場で喋りたい。そんな思いが彼女を突き動かした。
上司達は止めたが、絶対大きくなって今以上の力をつけてくるから、と言って決意を変えなかった。
その後フリーターをしながら、貯金を使って学校に通い、アナウンスの勉強をした。
司会者という仕事一本を本格的にやり始めて、四年程の月日が立つ。
「土日が来ると、あーまたかきたかって逃げ出したい気持ちになるんですよ。仕事の前は食べ物が喉を通らないくらいなんです」
シビアな世界だ。使えない奴だと思われたら、それでもう終わりである。
さらに司会者にとっては毎週のことでも、式を挙げる側にとっては一生に一度の出来事。精神的にも肉体的にも悲鳴をあげているような時でも、精一杯の笑顔で祝福しなければならない。
これまで何人もの仲間が、その厳しさに耐えられずに辞めていくのを目にした。
それでもなぜ続けていられるのか、という質問に彼女は「何でやろかなあ」と首を傾げる。
「まあそのうち、ええことあるかと思って続けてるんですよ」
しばらく沈黙した後、そう短くつぶやいた。かなり核心を突いた質問をしたつもりの私は、正直に言ってえ?それだけ?と拍子抜けしてしまった。
だけど取り留めのない雑談をしているうちに、徐々にその言葉こそが彼女のポリシーであることに気付かされる。
「FMではくだらんこと、どうでもいいことを気ままに喋ってるんです」
「尊敬している人ですか?特にないけど、明石家さんまとか所ジョージとか好きですねえ。マイペースでどうでもいいこと喋ってるじゃないですか。ああいうの聞いてると、あー人生ってくだらなくっていいんや、まあそのうちいいことあるわっていう気持ちになりません?」
「くだらんことにこそ真意があるんです」
寛いだ笑顔で冗談めかして言う声に、気負いや頑なさはない。
それはどこまでも透き通り、柔らかい余白を内包している。凝り固まった気負い十分の私は、次第に彼女の飄々とした声のクッションにはぐらかされ、気付けば自然とリラックスし、話を聞くという立場を忘れて自分のことを語りさえしてしまう。
司会者という職業は、目立つようでいて実はそうではない。むしろ主役に花を添える脇役である。喋りにより、主役の人間性をどれだけ引き出すことができるか、その場に居合わせた人々を満たすことができるか、その全てにかかっていると、彼女は言う。
なるほど。飾り立てた言葉やドラマティックな言葉を用いれば、聞くものを心地よくさせることは容易いに違いない。だが果たしてそこから一歩踏み込むことができるだろうか。おそらく聞き手は聞き手のままの位置に、安住してしまうであろう。
本当に生きた言葉とは、とるに足らない日常的な言葉だ。そのことを人前で喋る彼女は、常に意識しているような気がしてきた。
「なんか投げやりな答えですよねえ。ほんまにこんなんで良かったん?」
最後の質問に答えた後、彼女は笑い声を立てて私に尋ねた。狐につままれた感覚が拭えないまま、私は苦々しくうなずいた。
喋っているのは確かに彼女なのに、こちらが喋らされた気がしてならない。それだけ彼女の喋りは、空気を造りあげてしまうのかもしれない。
そう思った瞬間、謙虚な目立ちたがりやさんとしての彼女の姿が、透明な空気のように浮かび上がった気がした。
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