素晴らしき自分以外の人生。

陸 剛さん 日中文化交流を「食べる」ということから。

「なぜ、日本人、汚い中華料理店、よく行きますね。あれ、なぜですか?」

 なぜ、が口癖らしい陸さんは、身を乗り出して、そう言った。

「天麩羅、ありますね。あれ、パリパリがおいしいです。でもなぜ、スープつけて、食べるのですか?」

 その疑問の声には、まだまだ、もっともっと、そんな想いが滲み出ていた。

 中国出身の陸剛さんは、TV番組のコーディネート、翻訳、そういった文化的な日中交流を中心とした事業を営んでいる。
その事業の一端として、四年前に、飲食店経営をこの大阪の地で始めた。小さな屋台店からの出発だった。

様々な経験をし、様々な苦労を重ね、ようやく今の『上海食苑』『鴛鴦火鍋苑』を築き上げた。その出発時から、陸さんの想いは変わらない。まだまだ、もっともっと、そんな問いかけをもって、時代を見る。文化を見る。日本を見る。答えに飽き足りるということはない。

「今、人の味(味覚)、変わってます。昔からの老舗の店(の料理)、私、絶対食べない。おいしくない。
なぜおいしくない?昔の味、だから今おいしくない。」 

 時代によって、人の味覚は変化してゆく。文化や習慣によって、好みの味は異なってゆく。
ならば、どうすれば日本人の舌に合う料理を作れるか?どういう味が、今の時代に求められているのか?問いかけをやめた時、料理はそこから成長しない。

 陸さんはメモ帳を引っ張り出し、その白い紙の上に、『享受』という文字を書いてくれた。食べること=これなんだ、と陸さんは言う。受け入れること、そして受け入れたものを積極的に取り入れること。たった二文字の言葉なのに、それは日中文化交流を本業とする陸さんを、そっくりそのまま凝縮しているような気がした。

 自国の文化を広めるには、相手に自国のことをよく知ってもらうことだ。そんなふうに、我々は思いがちである。だが陸さんが店を経営するにあたってしたことは、逆のことだった。日本の食文化や食習慣を、とことん知るところから始まった。

 本場の小籠包は、皮が厚くて、脂も多い。だが日本人の好みには合わない。上海では点心の店は、朝にしかやらない。だが日本には朝食を外で食べるという習慣がない。
中国人は単品でしか注文をしない。だが日本人はあまり、単品で料理を頼むことがない。だから、店で出す小籠包を、皮を厚くし、中身をたくさん詰め、肉汁を多くした。
『上海食苑』を、夜に酒を飲みながら味わうことができる点心居酒屋にした。店に置くメニューを、セット的なメニューを充実させたものにした。そうすれば、日本人客は、おいしいと食べてくれる。満足して帰ってくれる。何度も店に足を運んでくれる。

 自分を知ってもらうということは、実は自分を受け入れさせることではなく、相手を受け入れること。相手をよく知り、相手を享受することなのだ。陸さんの話によって、今さらながらに、そのことに気付かされる。

「この店、自信、あります!なぜか?日本人に、中国の味、食べ方、全部分かること、できるようにしてるから。私、店、キレイ!味、おいしい!値段、安い!」

語気を強めて、陸さんは言う。

「もうからないですけど、もうからなくていい!文化として考える。私、日本の文化と交流します!」

 先日食べた、鴛鴦火鍋の味を思い出す。見た目にも辛そうな、赤いスープは、飲めば時間が立つほどに、舌先に甘い後味を残した。その甘さを、思い出す。なんだか優しい味だったような気がする。陸さんの微笑みを見て、また無性に、あのスープを飲みたくなった。
取材人:
STR国際(日本)株式会社代表取締役社長 陸剛さん

事業内容:
主に、日中間の友好交流の基本的な考えに立脚し、放送事業・文化・芸術・及びスポーツの相互交流の促進を行っている。

取材店:
鴛鴦火鍋苑

大阪市北区池田町6−7  「天五交差点東へ200メートル」
電話 06−6351−5358
鴛鴦火鍋とは…
今中国で大人気の鍋料理。辛い紅湯とあっさり白湯の2種類のスー
プで肉や魚を味わう中国しゃぶしゃぶ。
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